Story 社員の“でき”は、リーダーの“でき”?

スポーツであれ、経営であれ、チームメンバーの“でき”は何かと気になるものだ。

「うちの社員は“でき”が悪い。」「あそこの社員は優秀だよね。」そうやって社員を論ずることも多く、仕事柄、「うちの社員は、ちゃんと仕事しないので困っている」という話や「もっと、できる社員と働きたい」という話も聞くことがある。

“できない”社員をどうするのか? “できない”社員とどう関わるのがいいのか?

社長や幹部、リーダーの悩みの多くは部下やチームメンバーなど人にまつわることが多い。リーダーたちの話を聞けば、確かに困った働き方や事象を引き起こしているように感じる。だから、リーダーたちからすれば、その”できない”社員を何とかしたいし、辞めてもらえるなら辞めてもらいたい気持ちになる時もあるのだろう。

自分もリーダー経験を重ねてきた中で、過去もしくは現在の自分を重ねがら「そうですよね、、」と共感することもある。

“でき”の悪い社員がいなくなれば会社は本当によくなるのか?

しかし、「本当にそうなの?」「本当にその社員が問題なの?」と、ふともう1人の自分なのか、誰なのかが脳裏でささやく声が聞こえてくる時がある。

リーダー(もとい自分)は、その“でき”の悪い社員が何とかなればチームが良くなると思っているわけだが、本当にそうなのだろうか?

“でき”の悪い社員をどうにかして、“でき”のいい社員が揃えばチームはパフォーマンスするようになるのだろうか?

そうだとするならば、“でき”のいい優秀な社員を集めてこれる会社が一番強くなれるはずだ。会社の勝負は、優秀な社員を集めてくるゲームになる。

自分の慣れ親しんだスポーツの世界を見てみると、必ずしも“でき”のいいプレーヤーばかりを集めてきただけでは強くなれなさそうである。他のチームで活躍したエースやいい選手を獲得してきても、自分のチームでは活躍しないケースがそれだ。そういうケースを見ると、お金をかけて他チームで活躍する”でき”のいい選手を移籍させてくるだけでは強くなれるわけじゃなさそうである。

逆に、自分のチームでは鳴かず飛ばずだった“でき”の悪い選手が他チームに移籍して、活躍するということもある。自分のチームで活躍できなかったからといって、その選手が”ダメ”な選手とは限らないわけだ。

最短最速の判断が問題を引き起こしていたとしたら?

そんなことを考えてみると、その選手が“いい”選手なのか、“でき”の悪い選手なのかという固定的な判断、批評にはあまり意味がなく、自分のチームで活躍させることができるのか、どうかがより大事な観点に思えてくる。

会社においても、ダメな社員、使えない社員がいるというよりも、その社員のいい部分を引き出し、いい部分を活かしながら活躍してもらえているのか?という視点が、「この社員は使える、使えない」という社員評論よりも先に大事になるのではないだろうか。

当たり前といえば当たり前なのだが、しかし、最短最速で生き急いでいる時ほど、ついつい、我々リーダーは何かの事象が起きると、社員に対して、“できる社員”、“できない社員”という判断を拙速にしがちになる。そして事象の問題を、それに関わる社員に起因して捉えがちになることが多くあるのではないだろうか。

良さが発揮されやすい環境を耕すことが、リーダーにとって大事な仕事

いいチームづくり、ひいてはいい会社作りにおいては、“いい”、“悪い”や、“できる”、“できない”の烙印を押す前に、その人の良さに注意深く着目し、探求し、それが活きるシーンや領域を粘り強く探して、当人並びに関係者と一緒に磨いていくことがリーダーには求められていると思う。

リーダーはもちろん、チームメイトも含めて、どれだけその社員(互い)の“いい”部分や活きる領域を知っているのだろうか?そして、どれだけその“いい”部分を活かし合うという視点を持って互いに接することが出来ているのだろうか?

そして、それは一方的な理解、思い込みに止まらず、どれだけチームにおいて頻繁にコミュニケーションされているだろうか?

また、リーダーはどれだけ、社員の“いい”部分が発露されやすい環境を耕すことが出来ているのだろうか?という観点も大事にしたい。

「あの社員は“でき”が悪い」「なんで、あの人はこれくらいの仕事もちゃんと出来ないのか」と、自分の中で批判的な判断の声が聞こえてきた時こそ、上記のような視点からの内省を心を落ち着かせて取り組んでみたい。

「うちはできない社員が多い」と嘆く前に、リーダーとしての自分ができない社員にさせてしまっている環境や関わりを生み出しているのではないかと内省できたら、いつもとは少し違った気づきや発見があるかもしれない。もし、そのような内省から何か1つでも気づきがあったのなら、その気づきをもとに行動をしてみると、今までとは違った流れ・展開になる可能性はきっと高い。

そうした新たな展開を体験すると、社員の“でき”は、意外とリーダーを中心としたメンバーの意識とそこからの関わり合い、取り組みにかかっている部分が多いことを感じる。

リーダーは他者に向けた指先を、いつも自分に向けなおし、内省することが求められる生き物なのかもしれない。

小寺毅のコラムの一覧を見る