Story いい会社は「深耕」する

この記事は、2016年に小寺毅が書いた記事になります。少し古い記事になりますが、その内容は今も大切で、大切にしたい考えや視点が書かれているとの思いから掲載しております。

前回のコラム(いい会社は遠きをはかる)の続きとして、今日は伊那食品工業が考える健康な会社づくり、いい会社づくりのポイントについて書いてみたいと思います。伊那食品工業では、「いい会社」をつくるための10箇条を明文化していて、それが下記のものになります。

 1 常にいい製品をつくる
 2 売れるからといって つくり過ぎない、売り過ぎない
 3 できるだけ定価販売を心がけ、値引きをしない
 4 お客様の立場に立ったものづくりとサービスを心がける
 5 美しい工場・店舗・庭づくりをする
 6 上品なパッケージ、センスのいい広告を行う
 7 メセナ活動とボランティア等の社会貢献を行う
 8 仕入先を大切にする
 9 経営理念を全員が理解し、企業イメージを高める
10 以上のことを確実に実行し、継続する


これらの10箇条を、確実で安定した成長を実現するための原則として、伊那食品工業では常に大切にしているという。10箇条の一つ一つはそんなに難しいことではないかもしれないが、これら全部を実行し、継続することはなかなか簡単なことではない。 

また、伊那食品工業の場合、その一つ一つの「出来ている」レベルも高く、そして深い。「いい製品作れているよね」で満足することなく、常に「もっと」「もっと」を追求する姿勢がある。例えば、伊那食品工業は寒天メーカーだが、ただの「寒天」を作っているわけではなく、その商品ラインアップを見ると、そこには「これも寒天で作れちゃうの?」と思う商品が多い。

デザート系の商品だけでもゼリー各種、ババロア、杏仁豆腐、ココナッツミルク、わらび餅、羊羹、チーズケーキなどその種類は驚くほど豊富だ。(低カロリーで身体にも優しいということで、甘党の僕には嬉しい商品ばかりw)

こう書くと「へー、そうなんだ」くらいの感じかもしれないが、寒天からゼリーやチーズケーキを作るって相当な発想転換だったと思うんですよね。普段から慣れ親しんでいるものをいつもと違う用途に応用する力がなければ出来ない芸だと思います。

  「寒天はこういうものだ」という固定観念に囚われることなく、常に新しい用途を追求し、商品開発につなげる力を持っているからこそ、伊那食品工業は寒天という斜陽産業の中で生き残ってこれたのでしょう。実際に、1970年頃に35社あった寒天製造会社は、2004年には5社までに激減しています。つまり、ほぼ9割の同業他社は生き残れなかったということです。従来通りの寒天製造だけを続けていたら、きっと伊那食品工業も今のような会社にはなれていなかったでしょう。

いい会社には、いい哲学だけでなく、いい商品がある

伊那食品工業は「いい会社をつくりましょう」という社是や年輪経営など、そのフィロソフィー・経営哲学が注目されることが多いですが、それだけでなく、こうした従来の用途をも超えた使い方や商品を開発できる「商品開発力」が大きな競争力の源泉になっていることも見逃してはいけない点だと思います。

伊那食品工業に行くと、本社の敷地内にはキレイな研究棟とR&Dセンターがあります。社員の少なくとも1割の人員は研究開発に携わり、日々、寒天の原料や生産技術の研究に取り組んでいるそうです。こうした研究開発の中で、沸騰させなくても溶解する寒天や固まらない寒天などの新しい技術が生まれ、「これって、寒天で出来てるの?」と驚くような商品が開発されている。

いい会社づくりを目指す上で私たちも、伊那食品工業のように研究開発に力を入れ、自分たちの商材、商品の用途を追求する姿勢をもっともっと学び、実践していけるし、いく必要があるのではないでしょうか。

それを行っていく為には、自分たちが今までやってきたやり方に囚われることなく、新たな使い方を考えることが必要であり、知らず知らず 心の中に漂い始めている「どうせ、うちの商品は・・・」や「うちの会社じゃ・・・」、「うちの業界では・・・」という決めつけや諦めを払拭していくのが大事になると思います。

そうした、決めつけ(固定観念)や諦めを拭い、自社の商品やサービスの可能性を模索していく中で、新たな用途の発見や、思わぬ成功の糸口が見つかる可能性が高まるのではないでしょうか。

今まで、ずっとこういう用途(ex. 業務用)で使ってきたけど、こんな用途(家庭用)では使えないだろうか?と、使用用途を変えて発想してみたり。今まで、ずっと子供向けに開発してきたけど、シニア向けにも展開できないだろうか?と、ユーザー層を変えて考えてみたり。自分たちの慣れや染み付いた発想・固定観念を出来るだけ外し、違う視点から考えて見る。

他社が真似できないくらいの「いい商品」は深耕から生まれる

一つの商材、商品の用途を徹底して追求していくことを、塚越会長は「深耕」と呼んでいて、どのようなものでも深耕すれば、奥行きは無限大だと話されていました。伊那食品工業は寒天という素材を深耕し、1,000を超える商品を開発し、お菓子やスイーツ系の商品、医療医薬品系の商品、寒天を用いた自社レストランなどを手がけるまでに進化(深化)、発展しています。

深耕する過程では、独自の知見が蓄積され、そこからは特許も生まれる。そうした深耕する中で生まれた商品は、他社には容易には真似しづらく、一度マーケットを切り開いていくとマーケットの中で高いシェアを持ち続けることにもつながります。そうすると適正な利益を得ることができ、価格競争に陥るリスクも減り、好循環につながるわけです。

商品の深耕とは少し離れるかもしれませんが、「そこまでするのかー」と思ったのは生産設備の深耕です。なんと伊那食品工業では、工場にある生産機械までもを、できる限り自作してきたというのです。

どこかのメーカーから買える生産機械は、他社もお金さえあれば買えてしまう。でも、自分たちで作る機械は、欲しくても自分たちが売らない限りは買えない。ということで、伊那食品工業にはオリジナルな生産設備が多くでき、それらを用いて生まれたヒット商品は、やはり他社が真似したくてもなかなか追随できなかったようです。自社で生産設備を工夫し、作っていくことは伊那食品工業の隠れた商品の競争力につながっているんですね。

しかし、その競争力も塚越会長 曰く、元はといえばお金がなくて機械が買えなかったから工夫してやってきたことだったそうです。なので、逆境と言いますか、何かが不足している環境は工夫次第なんですね。

「お金がない。人材がいない。ブランド力がない。」など、「ない、ない」と嘆いているだけではダメで、「どうすれば?」「どうやったら?」と考え、工夫し、実行を重ねる中で、必ず突破口が見えてくる。そう思って、チャレンジして試行錯誤を続けることが、いい会社づくりを目指す上で大事なことなんですね。

「商売はね、知恵比べなんですよ。お金は有限でも、知恵は無限なんですから。」

そう語る塚越会長の言葉を胸に刻んで、今がどんな状況であれ、自社の商品、サービスの深耕を行っていきたいものです。 

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