Story 児童文学『モモ』から読み解く 灰色の世界から彩りある世界へと誘うコーチング・教育観とは?

株式会社はぐくむが大切にする世界観や人間観、教育観やコーチング論についてお伝えする対談イベント第2段。

本記事は、対談イベント「はぐくむコーチングの真髄#2〜児童文学『モモ』から読み解く灰色の世界から彩りある世界へと誘うコーチング・教育観とは?〜」を元にお届けします。

・コーチング学習に興味のある方
・はぐくむコーチングスクールの受講を検討している方
・オルタナティブな教育に興味のある方
・はぐくむという会社に興味のある方

こんな方は、ぜひご覧下さい。

児童文学『モモ』とは?

『モモ』は、灰色の男たち(時間どろぼう)の誘惑にのせられて時間の倹約に励み、次第に豊かな生き方を忘れてしまった人たちの世界で、真の豊かさを取り戻していく物語です。(詳細は下記参照)

なぜ児童文学『モモ』を題材に、はぐくむコーチングの真髄を語るのか?

『モモ』という児童文学は、人の話を聴くということはどういうことなのか?豊かに生きるとは、どういうことなのか?ということに対して、非常に示唆深い気づきを与えてくれます。

はぐくむが大切にしている傾聴の姿勢やその目指すところは、モモの聴き方やあり方(being)に非常に重なる部分が多く、とても参考になります。

また、物語の中心テーマである”時間との向き合い方”は、現在を生きる私たちにとっても重要なテーマであり、灰色の男たちの世界で生きるということは資本主義社会で生きていく時の落とし穴を示唆しているようにも感じます。

今回は、はぐくむコーチングの世界観、人間観をお話ししていく上で、この『モモ』という作品を切り口にお話しさせていただきたいと思います。

なぜ人は灰色の世界に陥るのか?資本主義社会の落とし穴とは?

モモを語る上で象徴的な存在が、灰色の男達=時間泥棒です。彼らは、

時間の倹約のしかたくらい、おわかりでしょうに!たとえばですよ、仕事をさっさとやって、よけいなことはすっかりやめちまうんですよ。ひとりのお客に半時間もかけないで、十五分ですます。むだなおしゃべりはやめる。

ミヒャエル・エンデ著、大島かおり訳(2005).『モモ』.岩波少年文庫.P.98

と町の人たちに”むだ”な時間を倹約することをすすめていきます。彼らの説得はさらに以下のように続きます。

年よりのお母さんとすごす時間は半分にする。いちばんいいのは、安くていい養老院に入れてしまうことですな。そうすれば一日にまる一時間も節約できる。それに、役立たずのセキセイインコを飼うのなんか、おやめなさい!(中略)寝るまえに十五分もその日のことを考えるのもやめる。とりわけ、歌だの本だの、ましていわゆる友だちづきあいだのに、貴重な時間をこんなにつかうのはいけませんね。

ミヒャエル・エンデ著、大島かおり訳(2005).『モモ』.岩波少年文庫.P.98

灰色の男たちの巧みな説得によって、町の人たちは彼らのいう通りに時間を倹約するようになっていきます。

するとどうなったか?

フージー氏はだんだんとおこりっぽい、おちつきのない人になってきました。というのは、ひとつ、ふにおちないことがあるからです。倹約した時間は、じっさい、手もとにすこしものこりませんでした。魔法のようにあとかたもなく消えてなくなってしまうのです。フージー氏の一日一日は、はじめはそれとわからないほど、けれどしだいにはっきりと、みじかくなってゆきました。

ミヒャエル・エンデ著、大島かおり訳(2005).『モモ』.岩波少年文庫.P.101-102

”無駄”を省き、時間を倹約することで豊かになれると信じて取り組んできたのに、逆に、町の人たちはだんだんと怒りっぽい、落ち着きのない人になっていきました。時間を倹約した分、余裕が生まれると思いきや、かえって人々は時間に追われて忙しくなっていったのです

これは資本主義社会の中で、最短最速に、効率的に生きようとする私たち自身も陥ってしまいがちな落とし穴ではないでしょうか?

”無駄”を省き、(短期的な)わかりやすい成果ばかりを最短最速で追っていくと、だんだんと気持ち的に余裕がなくなり、トゲトゲしたり、将来に対する不安感が増していくのではないかと思います。そして、次第に周りの人たちとのつながりや自分とのつながりも希薄になっていく…。

モモにおける1つのテーマである「時間」。この「時間」をどう捉え、どう向き合っていくのかが、人生の質を左右するのだということをモモは教えてくれているように感じます。

はぐくむのコーチングや対話で大切にしたいと思っているのは、”無駄”な時間を削減することや、最短最速でゴールを達成するということではありません。普段のビジネスや普段の生活と同じリズムでコーチングをしたり、普段の延長線上の思考や行動を加速させていったりすることでもありません。むしろ、最短最速の社会で過ごす中で、普段はゆっくりと立ち止まって考えられないことや、じっくりと聴くことのできない自分の声を聴いていくことを大事にしています。

急ぐのではなく、じっくり味わうこと。そして、ゆっくりと感じること。一度じっくりと立ち止まって、自分が本当に感じていることや、今ここで起きていることに意識を向けて、言葉にしていくことをはぐくむコーチングは大切にしています。

そんなゆっくりとした時間感覚の中で、自分の心の声を言語化していくことができると、少しずつ自分の大切にしたいことや、自分にとって本当に大切なことを大切にしていくリズムを取り戻していけるようになるのではないかなと思っています。

人はどうしたら彩りのある世界へと向かえるのか?

では、時の流れが速い現代社会において、人はどのようにしたら自分の大切なことを大切にして生きていけるようになるのでしょうか?

そのヒントが、モモの在り方にあるのではないかと思います。

小さなモモにできたこと、それはほかでもありません。あいての話を聞くことでした。(中略)モモがそういう考えを引き出すようなことを言ったり質問したりした、というわけではないのです。ただじっとすわって、注意ぶかく聞いているだけです。(中略)モモに話を聞いてもらっていると、どうしてよいかわからずに思いまよっていた人は、きゅうに自分の意志がはっきりしてきます。ひっこみじあんの人には、きゅうに目のまえがひらけ、勇気が出てきます。不幸な人、なやみのある人には、希望とあかるさがわいてきます。

島かおり訳(2005).『モモ』.岩波少年文庫.P.23-24

こういう一文がモモの中にあります。

はぐくむが人と対峙してコミュニケーションを取る上で大事にしたいことや、人の話を聴くことによって起きて欲しいと願っていることが、まさにモモの聴き方に現れています。

モモがアドバイスしたり、モモが何かリードしたわけではなく、モモと一緒にお話をしていると、自分の中にいいアイデアが浮かんできたり、意思が芽ばえてきたり、自分の中の答えや選択肢に対する明確さが生まれてくる。

コーチングは、一般的には目標達成を支援するものであると言われており、そのためにコーチが積極的に質問したり、積極的にフィードバックしたり、積極的にリクエストをしていくことを習います。しかし、はぐくむが最も大事にしていることは傾聴であり、はぐくむコーチングスクールにおいての学びの大半は聴くことに時間を割いています。主体はコーチではなく、いつも話し手であると思っているからです。

話し手はしっかりと聴いてもらう経験をすれば、おのずから意思が湧きあがってくる。しっかりと話を聴いてもらえれば、コーチが質問をしなくても、コーチが何かアドバイスをしなくとも、クライアントの中から生きたい方向性が見えてくる、そう思っています。

自分が人生で何を大切にしながら生きていきたいのか?

その問いは一見すると難しい問いに感じるかもしれませんが、しっかりと自分が感じていることに目を、心を向けていく時間を持ちながら人生を歩んでいくと、自然と湧き上がってくるものだと思います。

誰かにじっくりと話を聴いてもらうことで全てが解決する訳ではないですが、人生の中で、自分の話をじっくりと聴いてもらえる時間、自分の話をじっくりと話せる時間があることは、モモの物語が示しているように豊かな人生を生きていく上でとても大事なことだと思います。

この世の中にダメな人や、存在の意義がない人がいるわけではなく、ちゃんと聴いてもらえれば、様々な人たちのユニークな個性が輝いて、生き生きとした人生を歩んでいけるのではないかと思っています。

登壇者:小寺毅
モデレーター:平山裕三
筆者:星屋あやめ

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